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八幡町界隈 花の歳時記54
ユキヤナギ(雪柳)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦



滝の白糸のように見事な花穂


 桜の花見の頃になると、意地悪のように冷たい雨風の日がやってくる。これが花冷えという現象で、北半球の中緯度に位置する日本列島では宿命みたいなものらしい。それにしても今年の花冷えは異常であった。全国的に真冬のような寒さが続き、4月15日には、まとまった雪が開花直前の桜の枝に降り積もった。シートを敷き、花見の場所取りをしていた徹夜組が、すごすごと退散していく様子をテレビが捉えて映していた。
 春の遅雪としてよく引き合いに出されるのが万延元年(1860年)3月3日の桜田門外の変である。江戸幕府の井伊大老が、尊皇攘夷派の水戸藩士らによって暗殺された日で、これを新暦にすると4月16日になるので、今年の雪はこれに匹敵するわけである。
 仙台市では、この寒波の影響により桜の満開は4月の末に持ち越され、ようやく晩春の候になった。


あたかも雪をかぶっているような姿


 桜の花の散るのを待っていたかのように絢爛として咲き誇るのがユキヤナギである。宮城県以南の本州、四国、九州の山間渓谷に自生し、古くから生垣や寄せ植えなどの庭木として植栽されてきた。葉が柳に似て、雪の降りかかるように群がり咲くことがその名の由来。貝原益軒が著した江戸時代の百科事典「大和本草」や「大和本草批正」にも、「枝下垂する故に柳と云い、花多き故に雪と云い雪柳、一名岩柳、一名小米柳、山中谷川の岩上に生ず」とある。別名の岩柳は、自生地の状況を表すもので「近江御息女歌合」という古歌集の
いはやなぎ花色みれば山川の水の泡とぞあやまたれける
は、ユキヤナギを詠んだ句として有名である。なお、小米柳は純白な花を米粒に見立てたものである。
 ユキヤナギは、バラ科シモツケ属の落葉低木。茎は株立ち状になり、高さは1~3mである。葉に短い柄があって互生し、葉身は小さな抜針形で縁に細かい鋸歯がある。4月下旬、若葉と同時に前年枝の節に、径1cmほどの白い5花弁の花を数個ずつまとめて咲かせ、それが細い枝の上に連続して並び優雅で美しい。なお、前述した「大和本草」などの古い文献に「実なし、根下の苗を分栽すべし」と増殖の仕様を記しているがこれは誤りで、秋には黄褐色の袋果となり、裂開して種子を飛散させる。
 植物の専門書の中には、ユキヤナギを中国からの渡来種としているものもある。しかし、私が今まで見てきた山間渓谷でのユキヤナギ群落の生育状況や平安時代から岩柳としてうたわれている歌の内容などから、本邦古来の種として間違いはないと思っている。
 本県丸森町の船下り乗舟場付近から福島県梁川町にかけての阿武隈川の川岸に見られるユキヤナギも大きな岩の割れ目や岩礫地の間に根を下ろし、しがみつくように群落を形成していて、明らかに自然状態のものである。しかもこの群落は、わが国の分布の北限とみなされることから宮城県のレッドデータブックでは、要注目種※1として取り扱っている。

鉄橋をとどろきてやむ雪柳      山口誓子

 京都出身の昭和初期に活躍された俳人の句で、このユキヤナギも植栽種ではなく、自生のものと思っている。私の思い込みかもしれないが、今から10年ほど前の今頃、阿武隈渓谷の植生調査をしているときのこと。近くを通る阿武隈急行の電車が轟音をひびかせて鉄橋を渡りきったあと、近くにあったユキヤナギの花穂がかすかに揺れ動いていたことを思い起こすからである。
 俳句では、小米花、雪柳が春の季語。このうち小米花は古名の小米柳から変化したもので、主に明治期以前の季題として使われていた。

鶏の餌やまき散らす小米花      小布
風に杖をふるい落すか小米花     休音
一筋や走り咲きたる小米花      花蓑

 このコゴメバナは、同じシモツケ属のシジミバナの別名でもあり、紛れ易いということで、現在では雪柳でほぼ統一されている。
近世俳壇の有名な人たちの句を数首紹介する。

雪柳老の二人に一と間足り      富安風生
雪柳一と朝露を綴りけり       松本たかし
雪柳花みちて影やはらかき      沢木欣一
雪柳花にも重みありにけり      落合水尾
 

生け花としても人気がある
 
 ※1要注目種:宮城県独自のカテゴリー。
          県内では現時点で普通に見られるものの、特徴ある生息・生育状況等により注目すべき種。
[写真および※1は山本]


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