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八幡町界隈 花の歳時記72
ケイトウ(鶏頭、鶏冠花)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦



路地を彩る深紅の花

 歳時記は、秋を初秋、中秋、晩秋の三つに分けている。最も遅い晩秋は、概ね10月に該当し、陰暦では長月(ながつき)と呼ぶ。この異名は、夜の長さが感じられる夜長月を縮めたものといわれる。夜の一番長い日は、もちろん冬至(12月22日)であるが、この時期の寒さはかなり厳しく、夜長という表現は適切でない。読書や夜なべにふさわしい夜長は、晩秋に限る。
 晩秋も二十四気の寒露を過ぎると、晴れた日中は暖かいが、朝夕はめっきり肌寒さをおぼえる。郊外では野山の草木が色づき町内の露地には燃えるようにケイトウの花が咲きほこる。遠いシベリアからマガンが渡ってくるのもこの頃である。
 鶏頭や雁の来るとき尚あかし      芭蕉
 ケイトウ(Celosis cristata)は、ヒユ科の一年生草本で、原産地はインド。中国大陸経由で伝来し、奈良朝時代には既に栽培されていた。おそらく史前帰化植物なのであろう。漢字で鶏頭あるいは鶏冠花と書き、花序の形態が雄鶏のトサカに似ることに由来する。学名もギリシャ語で赤く燃える鶏の頭の意味を持つ。
 たくましい茎の上に妖艶な深紅の花を咲かせるケイトウは、昔から日本民族に親しまれており、わが国最古の歌集万葉集には次の歌が収められている。
 秋さらば写しもせむとわが蒔(ま)きし韓(から)藍(あい)の花を誰か摘(つ)みけむ(巻7・1362)
 歌中の「からあい」は、918年に編纂された「本草和名」に、鶏冠花、和名加良阿為とあるので間違いなくケイトウの古名である。また、「写しもせむ」とは、うつし染めにしよう、の意で、妻にしようと決めたことを比喩的に表現したもの。つまり、秋になったら妻にしようと真剣に思っていた女性を他人に奪われ、悔しがっている男の嘆き歌なのである。万葉集に「からあい」とある歌は4首、自然歌人山部赤人もこれを詠じている。
 ケイトウは、前にも述べているように熱帯地方原産の外来種である。しかし、わが国の風土によく馴染み、ほぼ全国的に栽培されている。農業関係の文献によると、もともとこの植物は、野菜として持ち込まれたもので、古代は若葉を食用にしていたといわれる。その後、古歌でうたわれるように花弁が赤色系の染料に使われ、やがて、その花弁を観賞する園芸植物へと発展したのである。この間、若葉は痔疾や血止めの民間薬として利用されてきた。
 
 ケイトウの園芸化は、江戸時代に入ってから盛んになり、色々な品種が作られている。背丈が15cmに満たない矮生種や1mを超える高茎種もあるが、一般には50~80cmのものが多い。茎は太く直立して紅色を帯び縦に条痕が入る。葉は互生につき、卵形で先が尖り、ほとんど無柄。花期は長く、初秋に咲き始め、霜の降りる頃まで続く。花の色が濃く、派手な感じもするが、昔から仏さまの花として用いられる。有名な系統として、花序が扁平状に帯化するトサカ系や、球状になる久留米系がよく知られ、花序が柔らかい羽毛状になる品種もある。
 同じ仲間にノゲイトウ(C.argentea)がある。これもインド原産の帰化植物で、西日本各地に野生化する。高さは40~80cm、上部で分枝し、長い茎の先に淡紅色から白色の穂状花序を頂生する。これをケイトウの母種とする説もある。
 なお、葉を観賞するため栽培されているハゲイトウは、同じヒユ科の植物であるが別属のものである。
 かくれ住む門に目立つや葉鶏頭          永井 荷風
 万葉集に韓藍、古今集などに韓紅(からくれない)としてうたわれた外来種が現在のケイトウの名に定着するのは江戸時代に入ってからのこと。品種の改良が進み、鶏冠のように花序の帯化する種が主流を占めるようになったからと思われる。俳諧では、晩秋の季題となり、芭蕉をはじめ多くの俳人たちの句が残されている。江戸期の有名な句を2,3紹介する。
 鶏頭の昼をうつすやぬり枕             内藤 丈草
 秋風の吹きのこしてや鶏頭花           与謝 蕪村
 ぼつぼつと痩けいとうも月夜なり          小林 一茶
 幻想的な情景を美しく描写した第一句の作者は、武家出身で芭蕉の高弟。第二句の秋風は、爽やかな風ではなく、この時期に時折吹き荒れる野分と思われ、第三句は、やせケイトウに月夜の美しさを引き合いに出した句であるが、このケイトウは、野生種のノゲイトウのようでもある。
 花の少ない季節に鮮やかな原色の花を咲かせるケイトウは、近代俳壇においても依然として人気があり、多数の句が詠まれている。
 字数が少々長くなったので、以下、著名な文人達の名句を列挙するだけに止める。
 鶏頭の十四五本もありぬべし          正岡 子規
 人の如く鶏頭立てり二三本           前田 普羅
 鶏頭に飛びくる雨の迅さかな          松本 たかし
 鶏頭をたえずひかりの通り過ぐ         森 澄雄
 鶏頭の穂先とびちる野分かな          石原 八束
 鶏頭の黄色は淋し常楽寺            夏目 漱石
 鶏頭に秋の日のいろきまりけり         久保田 万太郎
 
 
 

  

    秋の観賞用の花として人気の高いケイトウ

 

 


 
 
 
                                                        [写真は仙台市青葉区八幡町にて  佐藤撮影]

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