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八幡町界隈 花の歳時記78
ヒトリシズカ(一人静)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦



優雅な名を持つ野草ヒトリシズカ
 
 NHKの大河ドラマ「平清盛」の視聴率がいまひとつ低調である。我々の世代は、この主人公を極悪非道の大悪人と教わっているので、その影響によるものかもしれない。そのようななか、このドラマに悲劇のヒロイン常盤御前が登場した。その役を演じるのが国民的美少女コンテストで優勝し、芸能界入りしたばかりの武井咲という女優。まだ18歳の若さで、複雑な境遇に悩む大人の役を難なくこなしており、評判は上々である。久々に好感の持てる女優が出現したと期待している。
 話は変わり、わが国には「判官(ほうがん)びいき」という造語がある。弱者に同情する大衆の心理を表すもので、その出所は異母兄源頼朝と対立して敗れた判官義経への憐憫の情とされる。ご承知のとおり、その義経の母が常盤御前なのである。
時は文治元年(1185年)、京を追われた義経は、かろうじて吉野の山中に逃げ延びるが、同行の愛妾静御前は追手に捕まり、鎌倉に送られ頼朝の前で舞をまうように命じられる。静は、
 
     しづやしづしづのをだまきくり返し昔を今になすよしもがな
     吉野山峰の白雪ふみわけて入りにし人の跡ぞ恋しき
 
 と、義経を恋い慕う歌をうたい、華麗な舞を演じた。歌中のしづ(倭文)は、麻糸で織った布のことで、それを自分の名の静にかけ、丸く巻いたをだまきからくり返し出てくる糸のように何とか昔を今に戻す方法はないものか、と歌った。頼朝は激怒して静を殺そうとするが、妻政子の取りなしでなんとかその場は治まった。この哀愁切々たる物語は、頼朝憎しのイメージを一層増幅させ、判官びいきという言葉が定着したと言われる。
 頼朝を前に、白装束で舞う静御前の清楚な姿を連想して名づけられた植物がヒトリシズカである。今回は、春の野に咲く野草のなかで、最も優雅な名を持つヒトリシズカを取り上げてみた。
 
 ヒトリシズカ(Chloranthus japonicus)は、センリョウ科の夏緑多年草。沖縄を除く日本全域の低山帯に分布し、主に雑木林やスギ植林地の適潤な林床に群生する。仙台市郊外では、カスミザクラやヤマブキが開花する頃、地中を這う根茎から高さ15~30cmの多数の茎を叢生する。茎は真っすぐに伸びて1本立ち。はじめ紅褐色であるが後に濃緑色に変わる。最上部にだけつく葉は楕円形でやや大きく、これが十字対生するので4輪生に見える。葉身には光沢があり、縁に細かい鋸歯がつく。
 春5月、4枚の葉の間から1個の雌しべとそれを包む3本の白い雄しべから成る花序を長さ2~3cmのブラシのように頂生する。花粉を生産する葯は、通常花糸の先端につくものだが、ヒトリシズカは基部につく。
 ヒトリシズカは中国大陸にも分布しており、漢名は及己、わが国では慣習的に一人静と書く。なお、白く延びる穂状花序から眉掃(まゆばき)草の異名や、静御前が吉野の山中に迷い込んだ故事から吉野静の雅名もある。ただし、果期に入ると花穂は頭を下げ、葉の下にうなだれてしまうので、この状態を姥御前と呼ぶ人もいる。
 同属のフタリシズカ(Chloranthus serratus)も同じような場所に生え、穂状花序が通常2個となるので、謡曲「二人静」にたとえ、この名がある。ヒトリシズカより背丈は高く、30~60cm、葉に光沢は全くない。また、雄しべの花糸も丸まって子房を抱くので、筆先のような花序にはならない。花期はヒトリシズカより1ヶ月ほど遅れ、穂の数が3本のものも多く、この場合は姦(かしま)し草と呼ぶ。
 

真っすぐ延びた茎につく白い穂状花序
 
 俳句では、四季のうつろいがわかるように季語を入れて詠む定めがある。季語は季題ともいい、動植物の動きや生活の言葉を季節ごとにまとめた俳句歳時記がよりどころとなる。一人静は、純白な花の咲く季節を最盛期とみて、季語は晩春に分類される。
 
     草籠に一人静も刈られたる          水原 秋桜子
 
 雑木林の中にひっそりと咲く一人静は、いかにも愁いに沈む美女のようで、これがこのまま人知れず枯れ果ててしまうのかと思うと、惜別の情が湧いてくる。そこで、この花を刈り取って持ち帰り、切り花として観賞する人も多い。一人静の花期は、ちょうど山菜採りのシーズンと重なる。
掲句はこの時期によく見かける里山の光景である。
 
     君が名が一人静といひにけり         室生 犀星
     花ひとり一人静の名に白し           渡辺 水巴
 
 季題が優雅な名であると、その句もなんとなく上品に感じる。しかも、それが高名な作家であればなおさらである。
 
     一人静坂越し山越す誰が恋も         中村 草田男
     逢ひがたく逢ひ得し一人静かな        後藤 夜半
 
 義経と静御前との悲恋を連想しての句と思われる。吾妻鏡によると二人が吉野の山中で別れてから再開する機会は二度となかったようである。
 
※謡曲「二人静」:静御前の霊とその霊に憑かれた菜摘女との二人で舞う能楽の曲。
    
[仙台市青葉区で山本撮影]
 
 
 
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