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八幡町界隈 花の歳時記81
ヤブカンゾウ(藪萱草、忘れ草)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦


 花期は終わったが、ワスレナグサというヨーロッパ原産の草花がある。花壇などに植えられ、うす紫色の可憐な花を咲かせるムラサキ科の植物で、昭和30年代、倍賞千恵子が「忘れな草をあなたに」と唄い大流行した。「勿忘草」と書くのは、欧州に伝わる哀しい恋の民話「forget-me-not ※」を直訳したもの。
 一方、わが国にはワスレグサと呼ぶ野草がある。古代に中国から伝来した帰化植物といわれ、欧州原産の「忘れな草」とは一字違いであるが、こちらは「忘れ草」で言葉の持つ意味は全く異なる。漢字では、本家中国と同様「萱草」と書き、音読みはカンゾウ。
 この萱草については、中国の「文選」という古書に「萱草忘憂」の記述があり、わが国でワスレグサと呼ぶのも、この中国の故事による。

 

 
空地に咲くヤブカンゾウ

 

 ワスレグサ(萱草)の正式な和名は、真夏に咲くヤブカンゾウ。有史以前、中国大陸から渡来した帰化植物といわれる。ユリ科ヤブカンゾウ属(Hemerocallia)の多年草で、ニッコウキスゲやユウスゲも同じ仲間。属の学名は、ギリシャ語で華麗に咲く一日花を意味し、この属の植物の花はすべて一日限りの命である。ただし咲く時刻は、朝、昼、一昼夜などさまざまで、その咲き方が種を識別する特徴にもなっている。因みに英名もdaylily(一日百合)。
 帰化植物ではあるが、今では全国各地に広がり、特に人里近くの道端や土手、田の畔などにごく普通に分布する。根茎は紐状に多数出て、一部は紡錘状に膨らむ。この根には薬効があり、漢方では黄疸や利尿の治療に用いる。
 葉は横緑色の広線形で2列に並び基部は重なり合う。葉の間から50~100cmの花径を立ち上げ、2列に分かれた先端に濃い橙赤色の八重咲きの花弁をつける。雄しべは弁化し、3倍体であるため結実はしない。根茎から横に出る走出枝によって繁殖する。
 ヤブカンゾウの新葉やつぼみは古代から野菜として食用にされてきた。適度のぬめりけがあって美味といわれる。中国から輸入され市販されている「金針葉」も、このつぼみを蒸して乾燥させたもので、湯でもどし、料理に用いる。
 県内にはヤブカンゾウよりやや小ぶりで、花弁が6枚のノカンゾウも自生しており、これもワスレグサとして扱っている。

 ワスレグサを身につけると過去の憂いは忘れてしまうという中国の慣行は、わが国にも古くから伝わっていて、万葉集にはそれを証明する歌が多数詠まれている。

     わすれ草わが紐に付く香具山の故(ふ)りにし里を忘れむがため (巻3.334)

 大伴旅人が赴任先の大宰府で望郷の念禁じ難くして詠じた歌。
 旅人は年老いてから大宰府の長官に任じられ、妻と一緒に筑紫に下ったが、まもなく妻を病気で失う。それからは何かにつけてふるさとの香具山が恋しくてたまらず、その苦しみから免れようと忘れ草を衣の紐につけて耐え忍んだのである。

     わすれ草垣もしみみに植ゑたれど醜(しこ)の醜(しこ)草なほ恋ひにけり (巻12.3062)

 寄物陳思という部類に載る作者未詳の歌。恋に破れ、その苦しさを早く忘れようと、忘れ草を垣根一杯に植えてみたが、この愚かな草め、なんの効き目もなく、むしろ恋しさが募るばかりだと、忘れ草を罵っている歌。

 

 
燃えるようなオレンジ色のヤブカンゾウ

 

 俳句では、忘れ草、萱草(かんぞう、わすれぐさ)、花萱草などと詠まれ、もちろん真夏の季語である。万葉集などの古歌では、専ら「忘憂」の草として歌われてきたが、近世の俳句では、この傾向はすっかり薄れ、絢爛に咲くこの花を、自然の中の心象風景として捉えている。

     萱草の影澄む水を田に灌(そそ)ぐ      西島 麦南
     花萱草乙女ためらひ刈ってしまひ      加藤 知世子
     対岸へ飛火せしごと花萱草          金森 柑子

 俳句を作る場合は、自然の事象をそのまま写生する気持ちで詠むことが大切だといわれる。上の3句は、まさにそれを忠実に守っている句で、ヤブカンゾウの生態を良く観察している。
 第1句は、故郷の熊本で、実際に土との生活に親しんできた体験に基づいて作られたもの。第2句は、農作業中の乙女が、畦畔に赤々と咲くヤブカンゾウの株の刈払いをためらっている様子を描写したもの。そして第3句は、ヤブカンゾウの花の塊りがまるで飛火のように対岸のあちこちで咲いている光景を詠んだものである。第2句の作者は、このシリーズに再三登場する加藤楸邨の夫人である。
 以下の3句は、近代の著名人たちの作である。

     湯治場の黄なる萱草得て帰る       正岡 子規
     萱草や浅間をかくすちぎれ雲        寺田 寅彦
     海に出て海濁りをりわすれ草        森 澄男

※欧州の民話「forget-me-not」:婚約中の若い二人が、ある大きな河のほとりを散歩中、男が岸辺に咲く一輪の花を彼女のために摘もうとして足を滑らし、川に転落した。男は、「我を忘れるな」と叫びながら摘んだ花を投げ返し、急流に巻き込まれてしまった。以来、この花をforget-me-notと呼ぶようになった。

 
[仙台市青葉区にて 山本撮影] 

 

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