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八幡町界隈 花の歳時記83
ノコンギク(野紺菊、野菊)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦

 今年の夏は暑かったが、9月に入ってからの残暑も厳しく、真夏日が連日のように続いた。気象庁の発表によると、仙台市の9月の平均気温は23.9℃を記録し、平年を3.5℃も上回り、観測史上最高であった。これは9月の上・中旬に、日本の東海上に強力な太平洋高気圧が長く居座ったことによる。それでも秋分の日を過ぎると「暑さ寒さも彼岸まで」の諺のとおり厳しかった残暑は薄らぎ、にわかに秋冷を覚えるようになった。八幡町郊外の空地や道端、耕地の畦などには、秋の野菊が、白、黄、紫など色とりどりに咲き乱れている。

  

 
秋の路傍を彩るノコンギク 

  野菊は栽培菊に対応する用語で、秋の野を彩る野生菊の総称である。県内にはノコンギク、ユウガギク、カントウヨメナ、シロヨメナ、ゴマナなどが自生し、ほとんどがキク科シオン属(Aster)の仲間。しかし、これらの中でも野趣に富み、それらしい風情のあるのは、ノコンギク(A.ovatus)であろう。わが国の固有種で野紺菊と書く。ブナ帯から沿岸部にかけて広く分布し、日当たりの良い野原や路傍などに多い。和名は、花弁(舌状花)の色に由来し、栽培菊のコンギクに対し野生菊であることを意味する。
 種子と地下茎で繁殖し、大きな群落を作る。背丈は50~100cm。茎は上部で分岐し短毛が密生する。葉身は分厚く、長楕円形で、表面の3主脈が目立ち、縁に粗い鋸歯がある。春に摘む若葉は、ヨメナとともに昔から食用にされてきた。
 花期は9~11月。数多く分岐した茎の先端にキク科植物の特徴である頭状花を密に咲かせる。花の径は約2.5cm、総苞に包まれた花床の中央部に両性の筒状花が集まり、その外側を雌性の舌状花が一列に取り囲む。花後は蒴果となり、冠毛のある種子を風で四方に撒き散らす。
 
 野菊といえば、伊藤左千夫の「野菊の墓」が有名である。千葉県松戸市の郊外にある農家の少年政夫15歳と、政夫の病弱な母の看護に来ていた二つ歳上の従姉民子との淡い恋を描いた名作で、以前、松田聖子が民子の役で主演する映画もつくられていた。結局、世間体をはばかる周囲によって二人の仲は裂かれ、政夫は都会の中学へ進学、民子は意に添わない相手に嫁がされ、やがて病を得て死んでしまう。その訃報を聞き、かけつけた政夫は、民子の墓前にひざまづき、「野菊の如き君なりき」と述懐する物語である。
 ところで、政夫が墓前で野菊のようだと表現した菊が何であったか、いろいろ取沙汰されてはいるが、原作の舞台が千葉県であれば、ノコンギクとするのが無難である。作者の左千夫は次の歌を詠んでいる。

秋草のいづれはあれど露霜に痩せし野菊の花をあはれむ

  


  薄紫色がはかなさを際立たせている

 話は変わるが、西日本で野菊といえばヨメナ(A.yomena)を指す。本州中部以西に分布し、ノコンギクと良く似るが種子に冠毛はなく、葉は無毛で柔らかい。万葉集には、「うはぎ」の名で登場し、当時は花を観賞するよりも春の摘み草の対象とした。嫁菜は春の野の草を摘みとる乙女からきており、次の万葉歌が知られる。

春日野に煙(けぶり)立つ見ゆをとめらし春野の菟芽子(うはぎ)摘(つ)みて煮らしも(巻10.1879)

 野菊は秋の季語である。春や夏に咲く野菊もあるが、俳句では秋のものを対象とする。また、野紺菊、嫁菜のように正式な和名も秋の季題である。

頂上や殊に野菊の吹かれ居り      原  石鼎
一碧の天をいただく野菊かな      南部 憲吉
杉山に抜けて空ある野紺菊       川村 隆子


 ノコンギクやヨメナは明るい環境の地を好む。これらの野菊が人目につき易いのは、花が密生して咲くばかりでなく、明るい場所で秋の日差しを強く反映しているからである。初句は高朗華麗な作風で知られる石鼎の代表句、第2句の一碧は青一色に塗りつぶされている状態をいい、また、第3句の抜けた空とは、杉林の内部にぽっかりと生じた青天井の隙間のことで、いづれも野菊の咲く環境に視点を合わせている。

足元に日のおちかかる野菊かな     小林 一茶
心急(せ)き歩みおくるる野菊濃し      星野 立子
はればれとたとえば野菊濃きごとく   富安 風生

 野菊は道端に多く自生する、また、石礫の多い地では花弁の紫色は濃くなる傾向にある。


子狐のかくれ顔なる野菊かな      与謝 蕪村


 蕪村が得意とする虚構俳句で、野菊の咲く様子に遊び心を入れて、幻想的に描写したものと思われる。

湯壷から首丈出せば野菊かな      夏目 漱石


 明治の文豪漱石は俳句にも興味があったようで多数の句を遺している。掲句の野菊はその内容からして西日本に多い野路菊ではないかと思っている。ノジギクは花の径がノコンギクの倍以上もある白色黄芯の野生菊で兵庫県の県花に指定されている。

 

 

 

[仙台市青葉区にて 山本撮影] 

 

 
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