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八幡町界隈 花の歳時記95
リンドウ(竜胆)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦

  万葉集に詠まれる「秋の七種」の中に、入っていそうで入っていないのがリンドウ。秋の名花といわれるリンドウを外し、中国からの渡来種フジバカマを選んだのは、山上憶良のミスキャストとする意見が多い。
 同じ万葉集に次の歌が載る。
  道の辺の尾花が下の思ひ草今さらになど物か思はむ
                  (巻10・2270 作者不詳)
 道ばたのススキの根元に咲く思い草のように、今さらあなた以外にもの思いはいたしませんと、一途に恋人を慕う女性の歌。この歌の思い草を国学者契仲は「万葉代匠記(1690年)」にリンドウのことと、記述する。しかし、これには反論が多く、今では、ハマウツボ科のナンバンギセルということで定着する。ナンバンギセルは、ススキの根に寄生する高さ20cmほどの草本で、茎の先に赤紫色のパイプを思わせる筒状花を横向きに咲かせ、それが物思いをしているように見えるのでこの名がある。従ってリンドウは、万葉集にも歌われていない。
 平安時代に入ると、リンドウは秋の終わりの花として、さまざまな古典を賑わす。枕草子には、「竜胆は枝さしなどむつかしけれど(枝ぶりは良くないが)、異花ども(他の草花)のみな霜枯れたるに、いとはなやかなる色合にしてさし出でたるいとおかし」、と霜枯れの草原に鮮やかに咲くリンドウをよく観察しており、源氏物語の「夕霧」では、「草むらの虫のみぞよりどころなげに鳴き弱りて、枯れたる草の下より竜胆のわれ独りのみ長うはい出でて露けく見ゆる」と、これもリンドウの咲く晩秋の風景を生態的に描写する。

霜枯れの草原を彩るリンドウ 

 古典にしばしば登場するリンドウも、和歌ではあまり歌われていない。その辺の事情を考えてみると、どうやらリンドウという発音に原因がありそうだ。リンドウは漢字の竜胆から転訛した言葉で、その発音が、和歌の調べに馴染まないのであろう。それを裏づけるように、藤原定家は、竜胆を「りうたん」として次のように歌う。
 
  りうたんの花の色こそさきそむれなべての秋はあさぢふのすゑ
                           (拾遺愚草員外)
 晩秋の浅茅原に咲き競うリンドウ群落の風景が目に浮かぶ。

 流行歌は昭和時代に全盛期を迎えるが、リンドウを題材とする歌は作られていなかった。ところが、突如として現れたのが、島倉千代子の唄う「りんどう峠」である。


    りんどう峠
      作詞:西条 八十   作曲:古賀 政男
1 りん りんどうの花咲くころサ
姉サは馬こで お嫁に行った
りんりん りんどうは 濃むらさき
姉サの小袖も 濃むらさき 濃むらさき
ハイノ ハイノ ハイ
3 りんりん りんどうは 小雨にぬれる
わたしゃ別れの 涙でぬれる
りんりん鳴るのは 馬の鈴
姉サは峠に 消えてゆく 消えてゆく
ハイノ ハイノ ハイ

 昭和30(1955)年、17歳にして発表された、いわゆる古賀メロディで、情熱と哀愁のこもる歌声は「泣き節」として多くのファンを魅了した。千代子はその後も数々のヒット曲を飛ばし、NHK紅白歌合戦の常連として、現在も活躍中である。

秋の最後を飾るリンドウの花 

 リンドウ(Gentana scabra var.buergeri)は、リンドウ科リンドウ属の多年草。青森県から鹿児島県奄美諸島にかけて分布し、日当たりの良い原野や山林内に自生する。かつては仙台市近郊の原野にも、キキョウなどとともにごく普通に生えていたが、宅地化が進み自生地はほとんど消滅した。この傾向は全国的なもので、レッッドータ・ブックの絶滅危惧種に指定される。
 リンドウ属は、わが国に13種あり、県内に分布するのは、リンドウ、コケリンドウ、ハルリンドウ、タテヤマリンドウ、エゾリンドウ、フデリンドウ、の6種。リンドウ、エゾリンドウ以外はすべて春咲きである。なお、生花店で鉢植えや切り花として売られているのは、主にエゾリンドウの栽培種。
 リンドウの根を噛むと、ものすごく苦く、まるで竜の胆のようだということで、ついた漢名が竜胆。この根を水洗いして乾燥させたのが、漢方の竜胆で、昔から苦味健胃剤や解毒剤として用いられる。
 茎には4条線が走り、背丈は20~80cm、葉は対生し、葉柄はなく、葉身は卵状披針形で先がとがり、3本の主脈が目立つ。葉縁には細かい突起が並ぶ。
 花は10~11月、茎頭及び上部の葉腋につき、花冠は長さ4~5cm、青紫色で上向きの鐘形をしており、先端が5裂し、内面に茶褐色の斑点がある。
 果実は蒴果り、熟すと2つに裂け種子を散らす。
 リンドウの花と葉を図案化しのが笹竜胆で、村上源氏系の家紋。


 俳句歳時記では竜胆(りんどう)を秋の季題とする。面白いことに、元禄時代の季吟集「増山の井」に、前に述べている「思い草」がリンドウの異名として載る。おそらくは契仲の「万葉代匠期」の影響とみられるが、これを季語とする句は詠まれていない。
 次は江戸時代の句である。

  龍胆の花かたぶきて殊勝さよ        齋藤 路通
  りんだうや枯葉がちなる花咲きぬ      与謝 蕪村
 リンドウは秋の最後の花である。冷たい夜風にあたり、葉は灰色に枯れ、茎は地面に傾きかけた頃に開花する。
  龍胆をみる眼かへすや霧の中        飯田 蛇笏
  雨ためて竜胆花を覆えす          前田 普羅
 蛇笏は山梨県の人、普羅は浅間山を何度も訪ねた人で、ともに、高原を彩るリンドウには愛着を持っていたと思われる。
  好晴や壺に開いて濃龍胆          杉田 久女
  竜胆を畳に人のごとく置く         長谷川 かな女
 両人とも、明治生まれの才媛で、猛烈なライバル同士であった。かな女には、句集「竜胆」がある。
  山の日の片頬にあつき濃竜胆        富安 風生
  竜胆の日を失ひし濃紫           山口 誓子
  稀という山日和なり濃竜胆         松本 たかし
  濃竜胆かなしき声は地にこもる       石原 八束
 島倉千代子の「りんどう峠」にも唄われるように「濃むらさき」は、リンドウの代名詞である。


写真は山本撮影 

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