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八幡町界隈 花の歳時記97
カラタチ(枳・枳殻)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦

  12月12日、京都市の清水寺で恒例の今年の字が発表され、応募数の最も多い「輪」に決定した。この字が選ばれたのは、7年後に開催が決まった東京五輪の影響と思われるが、東北楽天ゴールデンイーグルスの日本一も、球団と地元ファンの一体となった輪の力によるものと信じている。ついでながら応募の2位は、楽天の「楽」であったとのこと。
今年もいつものとおり、いろいろな出来事があったが、「世の中はどう変わろうと師走来る」のとおり、慌しい年末を迎えている。
そうしたなか、先月急逝された歌手・島倉千代子さんの遺作「からたちの小路」が発売され、話題を呼んでいる。

からたちの小径(こみち)
作詞:喜多條忠・南こうせつ 作曲:南こうせつ
なつかしい歌を 誰かが唄っている
遠い日の思い出が よみがえる
駅から続く からたちの小径を
手をつなぎ 寄り添って歩いたわ
ああ恋の香りを残して あなたは消えた
好きです いついつまでも
涙が ぽろぽろり

カラタチの実と青い枝 

 この歌は、千代子さんが来年のデビュー60年の節目に合わせ、親交のあった南こうせつ氏に作曲を依頼したものであったが、自分の命の限界を悟ったものか、急遽、亡くなる3日前、自宅の応接室でレコーディングしたといわれる。千代子さんは、デビューして間もない1958年にも「からたち日記」でヒットを飛ばしており、カラタチには並々ならぬ思い入れがあったようだ。本シリーズでは、「りんどう峠」など、島倉さんにはいろいろお世話になってきたこともあり、季題として少しずれてはいるが、今回はカラタチを取り上げてみた。
 
 カラタチは、カラタチバナを略した名で、もちろん中国大陸の原産。かなり古い時代に伝来したようで、出雲風土記に薬用としてその名が残る。また、民家の生垣に利用されていたようで、万葉集では次のように歌われる。

枳(からたち)の刺(う)原(ばら)刈り除(そ)け倉立てむ屎(くそ)遠くまれ櫛造る刀(と)自(じ) 
(巻16.3832 忌部首(いむべのおびと)


 この歌は、「数首(くきぐさ)の物を詠める歌」の題詞があり、酒席で、枳、倉、屎、櫛、刃自の言葉を使って歌を詠めと言われ、忌部首が、それに応えて作ったといわれる。カラタチの茨を刈り払い、そこに倉を立てたいと思っている。ついては櫛を造っているご婦人よ、用を足すなら遠くへ行ってやってくれというのが大意。少々下品ではあるが、当時の庶民の生活風俗を知ることのできる貴重な歌とされる。
また、枕草子に「名おそろしきもの からたち」とあるのは、枝につく鋭い刺を表現したもので、清少納言は、カラタチの垣根を見て嘆じたものであろう。

 カラタチ(Poncirus trifoliata)は、ミカン科カラタチ属の1属1種の落葉低木。中国の長江上流域の原産とされ、千数百年前、朝鮮半島経由で渡来した。樹高は、2~3m、稀に径30cm、高さ6mの古木を見かける。柑橘類としては、耐寒性があり、北海道でも植栽される。漢字で枳、枳殻と書き、枳殻は漢方の生薬名でもある。カラタチは欧米でも栽培されており、orange jasmine と呼ばれる。
若い枝は、緑色を帯び、枝には葉の変形した太く鋭い刺がある。葉は互生し、3枚の小葉から成り、頂葉が最も大きく、葉柄に翼がある。
花期は初夏。展葉する前に、両性の花が前年の枝の刺の脇に1個つき、花弁は白色で5枚、ヘラ形で、先端が広く、下部は細長い。芳香があって、いかにも清楚な趣がある。この花は初夏の季語とされ、


からたちの花のほそ道金魚売り     後藤 夜半
の句がある。
果実は径3~5cmの球形となり、完熟すると金色の短毛に覆われる。芳香はあるが、強い酸味と苦みがあって、食用にはならない。
カラタチは、ミカン属との接木が容易で、ウンシュウミカンはもっぱらカラタチの台木を使用する。

カラタチの鋭い刺

 カラタチといえば、北原白秋の童謡「からたちの花」が、あまりにも有名だ。

からたちの花が咲いたよ。 白い白い花が咲いたよ。
からたちのとげはいたいよ。 青い青い針の刺だよ。
からたちも秋はみのるよ。 まろいまろい金のたまだよ。
からたちのそばで泣いたよ。 みんなみんなやさしかったよ。
からたちの花が咲いたよ。 白い白い花が咲いたよ。

  大正の末期(1924年)、雑誌「赤い鳥」に発表され、翌年、山田耕作が作曲し、後にテノール歌手、藤原義江が唄い、一世を風靡した曲で、童謡というよりも、懐かしい抒情歌として歌い継がれてきた。
 白秋はこの詩で、白い花、青いトゲ、そして金色の実と、カラタチの四季を歌うが、俳句では、花期を初夏、その他を晩秋の季題として句が詠まれる。


父母在(ま)せば枳殻の実の数知れず       石田 波郷
まろみ増す天からたちの実を太らせ    丸山 海道
金色のからたち地蔵はをさな顔       但馬 美作

 枳殻の音読みはキコクであるが、俳句ではからたちと詠む。
 枳殻はもともと漢方の生薬名で、カラタチの実を未熟なうちにもぎ取り、これを輪切りして乾燥させたものをいい、健胃薬や利尿薬とする。生垣に植えたカラタチも古木になると、たくさんの実をつけ、それが晩秋の青い空に映える光景は壮観である。


からたちの実の金色を刺囲む        野沢 節子


 カラタチの枝には、長さ2~5cmの鋭い刺がたくさんつき、それが泥棒除けになる。隣の県の二本松城では、寛永20年(1643年)、城外の防禦を目的にカラタチの並木を植栽したという記録がある。


木枯や垣のからたち刺ばかり        野田 昌幸
落ちているからたちの実や十二月      吉岡 禅寺洞


 カラタチは、柑橘類には珍しい落葉性の木本。落葉後は、鋭い刺が良く目立つ。木枯は、初冬から吹き始める北方からの強風のこと。これらの句は、晩秋というより初冬の句である。

 金色のカラタチの実

                                                                                                                                      写真は山本撮影

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