日本全国に分布し、日当たりの良い場所ならどこにでも生えているスイカズラ科の半常緑性つる植物。漢字で忍冬(にんどう)と書くのは、冬でも落葉しないためである。草本のように見えるが、下部の茎は木質化し、太いものでは直径が5cmにも達する。八幡町界隈では社叢の林縁、用水路の土手、空き地の周辺、更には家庭庭園の垣根などにも絡まり、いたるところで見ることができる。
スイカズラの花期は6~7月。葉腋に長筒の花が2個ずつ並んで咲く。花には強い芳香があり、はじめは純白色、2~3日して黄色に変化する。このため、金銀花とも呼ばれる。筒花の内部には多量の蜜が入っており、大きな蜂が飛んで来て花の根元をかじり盗蜜する。昔は子供たちもこの花の蜜を口で吸ったもので、これからついた名がスイカズラといわれる。
俳諧や茶道の世界では「さび」という言葉がよく使われる。さびは寂のことで、閑寂や閑静の趣を表わすものらしい。俳聖松尾芭蕉は、さびの心は物の気配を感じる心であると弟子たちに教え諭したといわれる。この蕪村の句は、音もなく静かに散るスイカズラの花に、その回りでかすかに聞こえる蚊の羽音を組み合わせたもので、澄み切った静寂の境地のなかでしか作ることができない、まさにさびの世界が滲み出ている秀作だと思っている。
「スイカズラの花」は初夏の季語で、花は夕方に開くとしている。そうであれば、次の句にも物の気配を感じる心が、そこはかとなく伝わってくるような気がする。
今は亡き狐狸庵々主 遠藤周作先生は、スイカズラをとても気に入り、花の時期には何度も山野に足を運び、花を眺めては瞑想にふけったものだと述懐している。先生の随筆集には、中学生の頃、好みの女子学生に次のような付け文を届けた話が載る。
これを受け取った女子学生は血相を変えてやってきて、今流にいえば大変なセクハラではないかと猛烈な抗議をされ、ひじょうに困惑したと書いている。どうやら彼女は、スイカズラを顔が丸い“西瓜(すいか)づら”と誤解したものらしい。
スイカズラは欧米にも渡って帰化し、さかんに繁殖している。はじめのうちは、斜面や壁面の被覆用緑化資材として重宝がられたが、今では雑草化し、畑地や植林地を荒らす植物となって困らせているらしい。
とは言っても、我が国では依然として重要な薬用植物である。スイカズラの茎や葉を乾燥させたのが漢方薬の忍冬(にんどう)である。扁桃炎、口内炎や健胃、解熱に著効があるとされ、また民間薬としては、葉を袋に詰めて浴槽に浸し入浴すると湿疹やあせもに良く効くといわれる。なお、スイカズラのつぼみを陰干しにして作る忍冬酒は補精強壮剤として古来有名である。
【解説】
スイカズラ Lonicera japonica (スイカズラ科)
半常緑の木本性つる植物。道端や林縁などに生育し、よく分枝して茂る。枝や葉など全体に毛が多い。葉はごく短い柄があり、対生する。大きさは長さ3~7 cm、幅1~3cm。形は卵形~長楕円形、まれに粗く羽裂することもあり、葉のふちにギザギザ(鋸歯)はない。花は色の変化(本文参照)とともに、形にも特徴があり、5枚の花びらのうち4枚は合生し1つとなって上に反り返り、残りの1枚は下側に曲がり込んでいる。果実は直径約5mmの球形で、9~12月に黒く熟し、二つ並んでつく。