8月に入ると八幡町界隈のあちこちの庭園や寺院に、ピンクの花をつけたサルスベリが咲き始める。花の少ない猛暑のさなかに咲くので良く目立ち、
の句を思い起こす。
サルスベリ(Lagerotroemia indica)はミソハギ科の落葉高木で、原産地が中国南部及びビルマ北部といわれる。わが国には中国経由で江戸時代の初期に伝来した。始めは天竺(インド)からやって来た沙羅双樹に似ている木ということで、もっぱら社寺の境内に植えられていたが、「紅艶にして愛すべし、その間100日ばかりあり」などと花の美しさや花期の長さが注目され、一般家庭にも利用されるようになった。
旧家の庭に咲くサルスベリの花期の長い様子を詠んだ歌である。
サルスベリの名は、幹がなめらかで猿も滑り落ちるということに由来し、別名の百日紅は花が100日も咲き続けることからきていて、そのままの漢字の読みで「ひゃくじつこう」となったもの。なお怕痒樹(はくようじゅ)の異名もあるが、これはなめらかな樹幹をさすると痒がって梢の枝まで伝わって揺れ動くという巷間の噂に基づくもので、怕とはおそれるという意味である。
サルスベリの樹高は通常3~10m、胸高直径は30cmぐらいになるが、西日本には直径が1mを越す巨木のあることが報告されている。幹は屈曲し樹皮は薄くはがれ落ち、その跡が雲紋状に白く残り、ザクロやヒメシャラの木肌に良く似る。小枝の断面は方形で稜に狭い翼があり葉は対性につき倒卵形で全緑。花は今年出した枝の先に円錐形に集まってつき、枝の下方から上方に向かって咲き続ける。
花弁は6枚、縮緬状にちぢれ、ピンクのフリルをつけたように見える。盛夏から初秋にかけて枝いっぱいに広げて花を咲かせる庭木で
の句がある。
妖艶ともいえるサルスベリの花には、千代女に限らず著名な俳人たちにも関心があったようで、次のような名句が詠まれている。
咲き満ちて天の簪百日紅 阿部 みどり女
ゆふばえにこぼるる花やさるすべり 日野 草城
近年、庭木として人気が出てきたことに伴い、多くの園芸品種が作出されている。依然として花の色はピンクが主流であるが、白色や紅紫色のものもあり、また矮生仕立てにした鉢植えのものも出回っている。
ところで、サルスベリの花は必ず当年枝にだけつくものである。このため落葉期間中に剪定を行うことは必須の条件となる。剪定が不十分であると花つきが粗となることを十分に心得て置くべきである。