3月5日は24節気の一つ啓蟄(けいちつ)である。冬眠していた虫や小動物が、陽気に誘われ穴から出てくるのでこう呼ばれる。しかし、北国の東北地方で実際に虫たちが地上に這い出るものはもっと遅く、4月にはいってからのことである。それでも啓蟄を過ぎると日差しは強まり、寒さは和らいでくる。広瀬川の河畔に生える柳の繁みには銀色の花芽が目立ち、春の息吹を知らせてくれる。町内の花屋さんの店先に生け花用のネコヤナギが売りに出されるのもこの頃である。
ネコヤナギは日本全国の川岸や原野に自生するヤナギ科の落葉低木である。背丈は0.5‐3.0m、下方から分岐し上を向いて伸びる。葉は互生につき、葉柄の下に半円形の托葉がある。葉身は、長楕円形で先端は短く尖り、裏面に銀色の絹毛が密生する。
雌雄異株でヤナギの仲間では最も早く開花する。雄株の花穂は尾状になり密に花をつけ、長さ3~5cm、雌花穂はそれより小型であるが、花期を終えると長く伸び、10cm近くに達する。ネコヤナギの名は、花穂の形態が猫の尾に似るところからきているが、小犬の尾になぞらえてエノコロヤナギとも呼ばれている。
ヤナギの仲間は種類が多く、わが国には高木性のものから低木性に至るまで35種が確認されている。また自然交配をしやすい特徴もあり、約40種の雑種が報告されている。
ヤナギは漢字で柳または楊と書く。両者の違いを辞典などで調べると、柳は枝が垂れ下がるもの、楊は枝が立ち上がるものとしている。つまり、シダレヤナギやウンリュウヤナギが柳、ネコヤナギ、イヌコリヤナギなどが楊ということになる。このことは万葉集も同じで、柳と楊を明確に区別して歌が詠まれている。次の一首は楊に関するものである。
「ヤナギは伐ってもまた生えるが、一度死ぬと再び生き返ることができない人間である私が、いま恋の苦しみに死のうとしているのを、あなたはどうせよというのですか」と片思いの苦しさを相手の責任であるかのように嘆いている歌である。
この万葉集に譬えられるヤナギの再生力はかなり強靭で、昔から護岸工事に植栽され川岸の侵食防止に利用されてきた。またヤナギの仲間は挿木が容易で、枝を折ってそのまま挿しただけで発根し、成長を続ける。富安風生の句に「猫やなぎ子供が挿して咲きにけり」がある。
むだ話になるが、「女は強い」とよく言われる。だが子供はもっと強いようで、北陸地方に次のような俚(り)謡(よう)が伝わる。
俳諧ではヤナギをすべて柳に統一して楊の字は使っていない。したがって、ネコヤナギも猫柳と表現する。
ちなみに、次はシダレヤナギを詠んだ句である。