おでんの鍋に入れる食材にガンモドキがある。油揚げの間に細く切った野菜や昆布などを詰め、これを干瓢で巻いたもので、その味が雁の肉に似ているというのが名前の由来らしい。モドキとは、このように似てはいるが非なるものの事を指し、ウメモドキも葉の形が梅に似ていることから名づけられた和名である。漢字でも紛らわしいという意味をもつ擬の字をつけ加えて梅擬と書く。
モチノキ科の落葉低木で学名はLlex serrata。北海道を除く日本全国に分布し、県内では里山地帯のやや湿り気のある山林内にごく普通に自生する。背丈はせいぜい2~3m、枝は良く分枝して短毛がある。葉は互生につき、葉身はウメの葉より幅がやや狭い長楕円形で、葉縁には細かい鋸歯がある。
花期は6月。今年出た新しい枝の葉腋に淡紫色の小さな花が集まってつく。雌株異株で、のちに雌株には径5mmくらいの果実をたくさんつけ、11月ごろ鮮やかな赤色に熟す。この果実をつぶすと、内部に白ゴマのような種子が7~8個入っており、これを播種すれば実生苗を作ることができる。果実は葉を落としたあとも長く枝に残り冬枯れの景色に彩を添えてくれる。このためウメモドキの雌株は観賞用として庭園に好んで植えられ、また盆栽用にも用いられてきた。
ウメモドキの光沢ある赤い果実を詠じた江戸時代の名句を2,3紹介してみよう。
松尾芭蕉の高弟で、元禄時代に写実派の鬼才として活躍した野沢凡兆の作。ウメモドキの赤い実を眺めるのに葉は邪魔であるから早く散ってしまえと、手前勝手なことを言っているが、まさにそのとおりと頷きたくなる句である。
芭蕉の没後、天明期の俳壇を隆盛に導いた与謝蕪村の句である。たわわに実るウメモドキの枝を手折るには、勿体なくてかなりの抵抗を感じる。それを念珠をかけながら祈るとは少々大げさであるが、その心情は分かるような気がする。この句と関係ないと思うが、ウメモドキをウメボトケと呼ぶ地方がある。
近年、小中学生や野鳥の会の人々の間で、学校や公園などの空地にウメモドキの植栽活動が盛んである。野鳥の給餌木の増殖を目的に行われているが、都市空間の修景にも役立っている。たいていの野鳥はウメモドキの実を好むとされているが、とりわけ留鳥のヒヨドリには大好物のようである。
これらは近世の俳人たちの句である。
ウメモドキは知名度の高い庭木で多くの家庭庭園で植栽されている。そうしたなか、色々な園芸品種も普及している。それらのなかから代表的なものを挙げてみると、実の色が白い白雪、白色に橙色が混じる七宝、絞り模様になる源平などがあり、果実が大粒で切花用に利用される大納言も栽培されている。
余談になるが、生け花に使うツルウメモドキはモチキ科ではなく、ニシキギ科の落葉ツル植物である。枝に付く果実の色や大きさがウメモドキに似るのでつけられた名とされている。そうなると、本家の梅にとっては縁もゆかりもないモドキということになる