遠い北国からツグミの大群がやってくるともう晩秋である。朝夕の冷気がめっきり肌に感じるようになり、今まで青々としていたマユミの葉は色づき、次第に赤黄色に染め上げて行く。マユミのもみぢは古くから知られ、山錦木の異名がある。
マユミの果実の鮮やかさもまたすばらしい。初夏に咲く黄緑色の花はあまり見栄えのするものではないが、後にこれが美しい淡紅色の果実に成長する。熟すと4つに裂け、中から真っ赤な種子を4個づつ覗かせる。葉が落ちても遅くまで枝に残り、枯れ木に彩を添えてくれる。「よく見れば花にはあらず檀の実」の句がある。
マユミは日本全国の里山地帯に自生するニシキギ科の落葉小高木。八幡町郊外の雑木林の林緑や棚田の土手などでも時折見掛ける。雌雄異株の植物で、実をたくさん着ける雌株は、見つかり次第観賞用に掘り取られ、民家の庭に住所変更を余儀なくされる。とにかく、誰でも知っている庭木である。
古い時代、この木で弓を作ったことがその名の由来である。当時は梓弓も存在していたが、本当の弓という意味でマユミになったといわれる。それだけ材は緻密、強靭で、杖や櫛にも利用された。万葉集では檀や眞弓の字が当てられ、多くは「張る」や「引く」などにかかる枕詞として使われる。
お隣の福島県安達地方に産するマユミで作る弓は剛弓として知られていた。だから、この弓の弦を外して置くと、再び弓に張り掛けるには大変苦労するという意味である。しかしこの歌は譬喩歌(ひゆか)であって、昔つきあっていた男性が突然現れ、再び元通りの交際をしてくれといわれても困るというのが真意である。
万葉集にはまた次のような歌もある。
白檀はマユミの白木で作った弓のことで、大空に出向いていって弓を射ようと、白木の弓をひきしぼってかくし持っているお月様。とういうのがこの歌の意味らしい。つまり、東の夜空にかかる弓張月を擬人化したもので、七夕に逢う彦星と織姫の仲を嫉妬するお月様の歌といわれている。
葉の裏側の脈上に短毛が密生し、果実が濃紅色になるのがカントウマユミで、マユミの変種である。マユミと同じような場所に生え、往々大木に育つ。かつて白石市小原塩倉の民家に樹高13m,胸高周囲1.9mの大木があり、天然記念物に指定されていたが惜しくも枯損し、消滅してしまった。