八幡3丁目のバス停「龍宝寺入口」の北側に、石塀に囲まれた瀟洒な邸宅があり、その前庭にタラヨウが植えられている。かなり風格のある古木で樹高8m、胸高直径は30cmを超え、楕円形の大型葉を枝々にたくさんつけ、年中青々と繁っている。
タラヨウは、多羅葉と書き、モチノキ科の常緑高木で雌雄異株である。本州中部以南・四国・九州の照葉樹林内に混生する。果実を観賞するため、東日本でも寺院や庭園によく植えられる。龍宝寺入口のものは雌株で、晩秋になると枝先に赤い実を重ね合わせたようにつけ、道行く人々の目を楽しませている。そのたわわに稔る実を眺めた我が社の女性社員は、
と詠じた。
タラヨウの濃緑色の葉と赤い実とのコントラストがすばらしいので、さぞかし和歌や俳句にうたわれているだろうと、いろいろな文献を漁ってみたが、それが全く見当たらない。俳句の世界では、同じ様な樹形の泰山木が夏、珊瑚樹が秋の季語となっているのに、季節感あふれる多羅葉の実が季語から外されていることは、いささか不公平のように思える。
タラヨウといえば、塩釜神社拝殿前の巨木が有名である。根元の近くで2本に幹分かれするが、それでも各々の径は80cm、樹高は16mに達し、威風堂々と聳えている。これも雌株で樹齢は350年とされ、宮城県指定の天然記念物で社殿を守る防火樹として植えたものらしい。
タラヨウにはエカキバという俗名がある。この木の分厚い大きな葉に、蝋燭などの火を近づけて炙ると黒変する。紙のない時代には、その黒い部分に佛教の文字を書き記したのが由来である。また、奈良朝時代にはタラヨウの黒変する模様で占いをしていたようである。
万葉集の東歌で、大意は、武蔵野で占いをしたところ誰にも言ったことのないあの人の名が占いに出てきたので、もう人に知られてしまったのではないか・・・と心配している乙女の歌である。この肩焼きが焦がしたタラヨウの葉ではないかとする説がある。
ツグミがやってきてついばむ前に、是非、八幡3丁目のタラヨウの鈴なりの赤い実を観賞されるようお勧めする。
【解説】
タラヨウ Ilex latifolia (モチノキ科)
静岡県以西の本州・四国・九州の山地に自生する雌雄異株の常緑高木。庭や寺院にもよく植えられる。枝は太くて円く、無毛、レンズ状の細突起がある。葉は厚い革質、深緑色で光沢のある長楕円形、縁にするどい鋸歯がある。葉表面の中肋は凹み下面に隆起する。4~5月、葉腋に淡黄緑色の花を多数束生する。核果は球形で赤く熟し、径8mm。