No.3 ムクゲ(木槿)

 

道路沿いに植えられた紅花のムクゲ

 

 9月に入ると朝夕は大分涼しくなるが、日中の気温は相変わらず高く、盛夏をしのぐ日もある。この時期に咲き始めるのがムクゲで、蕪村の高弟几董(きとう)は、

秋あつき日を追うて咲くむくげかな

 

と詠み、この花の咲く季節感をうまくとらえている。八幡町界隈では民家の庭先や垣根に植えられていて、道行く人達の目を楽しませてくれる。

 ムクゲは中国大陸の原産とみられ、朝鮮半島を経由して奈良朝時代の始めに渡来した。隣の韓国では、これを国民花にして盛んに植えている。フヨウやハイビスカスと同じ仲間の落葉低木で、高さが3~4mになる。中国と同様、我が国でも木槿の字が当てられていて、そのまま漢字読みのモクキンが訛ってムクゲになったといわれる。

 ムクゲの花は薄紫色が主流であるが、紅や白もある。特に純白の花には気品があり、北原白秋は、次のように歌っている。

はらはらと雀飛びくるむくげ垣ふと見ればすずし白き花二つ

 

 ムクゲの花期は長いので、あまり気付かれてはいないが一日花である。朝に開き、夕方には萎んでしまう。こんなことから「しばしの栄華」を譬(たと)える形容句に使われ、唐の詩人白居易は「槿花一日の栄」、源平盛衰記では「槿花一朝の夢」と表現している。
 万葉集巻10の秋の雑歌の中に、

朝顔は朝露負いて咲くといへど夕影にこそ咲きまさりけり  (巻10・2104)

が収められている。この第1句のアサガオが何物であるかを巡って古くから論議が繰り返されてきた。万葉時代には、まだ本物のアサガオは渡来していなかったからである。一応、ムクゲ説とキキョウ説が有力であるが、ムクゲとするには夕方に萎んでしまう花の性質から、「夕影にこそ咲きまさりけり」ではおかしく、またキキョウの花を朝に咲くアサガオに見立てるには無理があるなど未決定のままとなっている。

いつまでも吠えゐる犬や木槿垣

 

 高浜虚子の句である。ムクゲはかなり下の方から分枝するが、全体的に直立型の樹型となるため生垣には最適である。強度の刈り込みに堪え、病害虫にも強く、挿し木で容易に苗木を増やすことができる。

 ムクゲの樹皮は漢方で木(もく)槿皮(きんぴ)と称し、解毒、止痒薬として用いられ、また樹皮の繊維は上質で紙に漉(こ)せばコウゾの紙より美はしと古書にでている。

【解説】
ムクゲ Hibiscus syriacus (アオイ科)
 庭によく植えられる中国原産の落葉低木。枝は灰色、若いときには星状毛がある。葉は互生、3浅裂で基部はくさび形。花は径5~7cmと大きく、紅、紫、白、八重咲き等多くの園芸品種がある。果実は蒴果で卵円形、密に星状鱗毛があり、種子は腎形で湾曲し、背に褐色の長毛が密に生える。

 

紅花のムクゲ

白花のムクゲ
2009年5月15日