No.28 フクジュソウ(福寿草)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦
黄金色のフクジュソウの花
黄金色のフクジュソウの花

 フクジュソウは陰暦の正月に開花するので、めでたい福と寿の二文字を重ねて命名されたといわれる。日本全国に分布するが西日本には希で、北日本に多く自生する寒さに強い植物である。
 キンポウゲ科の宿根草で、短い根茎から出るヒゲ根を掘り取り乾燥させたものを漢方では福寿草根と称し、心臓疾患の治療薬として用いる。

 フクジュソウ(Adonis ramosa)は雪の残る寒中、凍てつく土を押し上げて活動を始める。まずは太い花茎を地上に伸ばし、その頭部に最初の一輪を咲かせる。花茎の下部を覆う数枚の鞘は、これまで新芽を包んでいた鱗片のなごりである。花の直径は約3cm、美しく黄金色に輝き、見る人に新春の喜びと希望を与えてくれ、観賞価値の最も高いのがこの時期である。

フクジュソウの球形の集合果
フクジュソウの球形の集合果

 最初の花が咲き終わると茎は上方に伸張し、上部にも第2、第3の花をつける。茎に互生して着く葉は、細かく羽状に裂け、鮮緑色でニンジンの葉に良く似る。フクジュソウの活動期間は短く、周囲の樹林が展葉する初夏には、球形の集合果を結んで枯れてしまい、翌春まで地下で休眠状態に入る。フクジュソウは里山の雑木林の林床や棚田の土手などに自生していたが、観賞用に乱掘され、めっきり少なくなった。八幡町の郊外にもかつては所々に自生地があったといわれるが、今では国見付近の旧家の居久根や庭先など、監視の目の届く場所でしか見ることはできない。このようなことからレッド・データ・ブックでは、全国的に絶滅危惧種に指定されている。

福寿草落葉の中や人にかくれ青邨
福寿草満開雪(せつ)塊(かい)しりぞくに青邨

 作者の山口青邨は岩手県盛岡市生まれ。東大工学部の教授を勤めるかたわら、昭和初期に活躍した著名な俳人で、みちのくの自然を題材にした作品が多い。二句とも野生のフクジュソウを詠んだもの。

 フクジュソウは、元日草や正月草の別名でも呼ばれる。ちょうど旧暦の正月に咲くこの花を鉢植えにして床の間に飾る風習に由来した名である。このならわしが世に広まったのは江戸時代の元禄期とされるが、そのまま新暦になってからも引き継がれている。ただし現代の正月は、花期が1ヶ月以上も早まるので、温室で作る促成栽培の鉢植えが多く使われる。

帳箱の上に咲きけり福寿草一茶
朝日さす弓師が店や福寿草蕪村
日のあたる窓の障子や福寿草荷風

 これらの句は、平たい鉢に盆栽として植えたフクジュソウのふっくらとした風情を詠ったものと見られる。
 ところで最近の情報によると、日本産のフクジュソウには茎が中実(内部が詰まる)なものと、中空なものとがあり、前者をフクジュソウ、後者をミチノクフクジュソウに分類すべきであるとの説がある。

希望に満ちたフクジュソウ
希望に満ちたフクジュソウ
[写真は青葉区国見にて 山本撮影]
2009年5月15日
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