No.32 サンゴジュ(珊瑚樹)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦
大崎八幡宮のサンゴジュ
大崎八幡宮のサンゴジュ

 今年の夏至は6月21日であった。太陽はこの日、北回帰線まで北上し、昼間の時間は一年で最も長い14時間35分になる。だが、この時期は梅雨前線が停滞するため雨の日が多く、うっとうしい天気が続く。特に今年は、ちょうど一週間前に岩手・宮城内陸地震があったばかりで、被災地での二次災害が心配である。強い降雨のないことを切に祈っている。

 いつもこの時期になると、大崎八幡宮裏手にある駐車場の脇に、濃緑の葉の間から白い花の固まりをたくさん覗かせる大きな庭木が目にとまる。何の花だろうかと立ち止まり、手をかざして眺めている参拝客もいる。これが優雅な名のつくサンゴジュである。
 サンゴジュ(Viburnum awabuki)はスイカズラ科の常緑広葉中高木。千葉県以西の本州、四国、九州の海岸に近い照葉樹林内に多く分布する。暖地系の植物で、東北地方には自生しないが、宮城県では明治中期以降、各地で庭木や生垣に植栽されており、県庁の構内には樹齢100年を越える老木が今も健在である。

厚い葉に囲まれたつぼみ
厚い葉に囲まれたつぼみ

 樹皮は暗褐色で粗面、樹幹から多くの枝を出す。枝はやや太くて若い枝は赤味を帯びる。葉は対生につき、葉身は長楕円形で厚い革質、表面は光沢のある濃緑色を呈し、裏面は淡緑色である。この葉を折ると内部から白い綿毛が出る。
 花期は6月下旬。枝の先端に円錐花序を作り、花冠の上部から5裂する小さな花をたくさん咲かせる。花には微かな芳香があり、色々な昆虫が集まる。この花が10月ごろ長径8mmぐらいの核果に成長して紅熟する。そのたわわに実る姿は美しく、これが珊瑚樹の名の由来といわれる。ただし、宝永年間(1708年)に貝原益軒が著した「大和本草」という当時の百科辞典には、この樹に関し「キサンゴといい、葉はユズリハに似て茎は淡紅なり」と出ているので、江戸期には黄珊瑚と呼ばれていたようである。

 サンゴジュは、昔から「火防せの木」として知られている。木に水分を多く含み、燃やしても泡を吹くだけでなかなか燃えにくい。学名の小種名がawabukiになっていることからも分かる。また、厚みのある葉身は火を受けても焔を出すことはない。内部に詰まる綿毛がアスベストと同じ効果を発揮しているものとみられる。こうした経験則のもとにサンゴジュが防火樹として植えられているのである。狭い道路を隔てて住宅街と接する八幡宮境内のサンゴジュも類焼防止を目的で植栽されたものに間違いないと思っている。

 俳句では[花珊瑚]が春の季題である。

花珊瑚井蓋にくらき水ひびく角川 源義
手庇の母に珊瑚樹花ざかり古田 一子

 1句目は、門外漢の私にとってかなり難解である。どうしても防火樹と井戸水との関係が頭に浮かんできてしまう。俳句を作る場合は、物の気配を感ずる心を持つことが大切だと言われているので、この作者も心境のおもむくままに感じたことをそのまま詠じたものだろうと思っている。
 第2句の庇は、屁と間違えやすいが、「庇を貸して母屋を取られる」のひさしである。手をひさしにして、サンゴジュの花ざかりを眺めている母の姿を詠ったものである。同様な光景は、既に紹介しているように八幡宮の裏参道でつい最近見かけたばかりである。

白く輝くサンゴジュの花
白く輝くサンゴジュの花
濃緑と白とのコントラストが美しい
濃緑と白とのコントラストが美しい
[写真は青葉区八幡にて 山本撮影]
2009年5月15日