先月はフキを紹介するつもりで筆を取ったが、ちょうどフキノトウの旬であったので、蕾の話に終始し、本体のフキについては疎かにしてしまった。そこで今月は、それを補う形で話を進めることにする。
フキ(Petasites japonicus)は、本州以南の山野にごく普通に分布するキク科の多年草である。地中を這う地下茎の先端から、フキノトウより少し遅れて数本ずつ根生葉を伸ばす。これが食用になるいわゆるフキの部分で、大きくなると葉柄は50cmほどの長さに伸び、その先端に幅30cmほどの円形の大型葉をつける。葉身の基部は深い心形で、葉縁に細かい鋸歯があり、両面に短毛が生えるが、後にこの毛は、落ちてしまう。
フキは山野から採取する山菜と思われているが、平安時代に編集された「延喜式(927年)」に、セリやミツバとともにその栽培方法が記述されており、日本特産の古い蔬菜なのである。また、江戸時代、宮崎安貞によって著された「農業全書(1697年)」には、「市町近きの所は、フキを売りて利潤多き物なり」とあり、城下町周辺での高商品性野菜としてフキの栽培を奨励している。その流れは現在でも生きており、フキの耕作地が多いのは、大都市周辺で、特に愛知県と大阪府の生産量が多い。
食用となるフキの葉柄は、淡い緑色で若干紫色を帯び、多肉質で、内部は中空になっている。収穫後素早くこの茎を茹でて皮を剥ぎ、煮物や和え物にして食卓にのせる。香りが高く、ほのかな苦味もあって季節の食べ物に適している。
作者は放浪の俳人であったが、のちに芭蕉の高弟となった人である。
醤油と唐辛子で辛く煮込み、佃煮にしたのがキャラブキ。昔から保存食とされてきたが、今でも多くの社寺では精進料理に使っている。
俳句では、「蕗の薹」が初春、「蕗」や「蕗の葉」が初夏の季語である
江戸期の著名な俳人の句で広く人口に膾炙されてきた。
近世の巨匠と呼ばれる人達の句である。
両句ともフキ採りのシーズンを詠んだ句で山間部の林道などでよく見かける風景である。
「夕立の時にも傘いらねぇ」と秋田音頭で唄われるアキタブキ(P.japonicum var giganteus)は、フキの変種とされている。全体的に大型で、腎円形の葉身は、幅1.5m、葉柄も長さ2mを越えるものがある。フキノトウも大きく、大人の握り拳ぐらいはある。秋田県の大館地方で栽培されているが、自生地は北海道と北日本の標高の高い山地となっており、宮城県でもブナ林地帯の沢沿いの湿地帯に分布する。
アキタブキの葉柄の肉質はかなりかたく、茹でて食べてもおいしくない。消費の大部分は、佃煮や砂糖漬けなどの加工原料として利用されている。
少々旧聞に属するが、宇野浩二が大正10年に発表して話題になった「蕗の下の神様」という小説がある。コロボックンクルという小さな神様を主人公にして、アイヌ人たちの間に伝わる物語を童話に仕立てたものである。コロボックンクルとは、アイヌ語で蕗の下の神様を意味し、そのフキがアキタブキというわけである。
いつも自然界の植物へ優しい愛情をこめてうたった夭折の歌人木下利玄の作である。