No.7 ライラック (ムラサキハシドイ)

(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦

 

庭に咲くライラック

 

 昭和20年代の半ば、「リラの花咲く頃」の題名で、岡本敦郎(おかもとあつお)さんがNHKのラジオ歌謡からヒットした曲。この歌を口ずさんだ人たちは、既に中高年の域に達しているが、戦後の混乱期を生きてきた年代にとっては、心の琴線を揺るがす思い出深い歌である。

 リラはフランス語で、英語ではライラックと呼ぶ。モクセイ科の落葉性の低木で、原産はヨーロッパのバイカル半島やハンガリーとみられる。16世紀頃、イギリスやフランスに入り、育種されて多くの品種がつくられた。一般に、庭園で植栽されるのはその園芸品で、ガーデンライラックと呼ばれ、野生種とは区別されている。枝先に集まって咲く小花は、本来紫色が主流であるが、白色、淡桃色、赤色、青紫色とさまざまである。花にはほんのりとした芳香があり、多くの人に好まれる。モネ、ゴッホ、ルノアール等の画家はこれを絵にしている。

 我が国には、明治の中期に渡来し、ムラサキハシドイの名で呼ばれる。寒冷地向きの庭園樹として評判になり、北海道や東北地方の公園や庭園に植栽され、またたく間に普及した。札幌市の市花となっており、5月下旬、大通り公園では盛大にライラック祭りが行われる。
仙台地方では5月中旬に開花する。八幡界隈では露地や垣根に植えられ、初夏の香りを満喫させてくれる。

 

蝶来ると見ればいつしかリラ咲けり  水原 秋桜子
真昼間の夢の花かもライラック    石塚 友二

 

 イギリスでは、ライラックの花を身に着けた女性には結婚相手に恵まれないとの言い伝えがある。このためか、交際相手からライラックの花束が届けられると婚約破棄を意味するといわれる。

 

さりげなくリラの花とり髪に挿し  星野 立子

 

 そうなると、この句の作者はその後どうなったのか気掛かりである。

 ハシドイは、我が国に自生するライラックの仲間である。北海道や東北地方の山林内に多い落葉広葉樹で花は白色。これも枝先に小花が集まって咲くので、「端に集う(はしにつどう)」から来た名とされる。北海道や隣の岩手県では、この木を“ドスナラ”の方言で呼ぶ。ハシドイの木は、よく燃えるので、山仕事をする人達はこれをたき木として重宝する。しかし、威勢よく燃えさかるとオキが周りに飛んで敷物や着物に焼け穴をこしらえる。顔におできの多い人をドスと呼ぶが、着物などにつくられた焦げあとをそのドスにたとえたものらしい。ハシドイの樹肌はミズナラとよく似る。

【解説】

ライラック Syringa vulgaris (モクセイ科)

 高さ2~7mほどの落葉性の樹木。葉は対生し、長さ4~10cm、幅2.5~6cmの3角状の広卵形で、先はとがり、ふちにはぎざぎざがない。無毛で、表面にやや光沢がある。花は4~5月に開花し、芳香がある。両性花 (ひとつの花におしべとめしべの両方がある) で、ひとつひとつは径2cm程度であるが、枝先に密に集まって20cm内外の円錐状の花序となる。多くの園芸品種があり、紫色、白色、赤色、青色などがある。

 


ライラックの花序

白花のライラック

 

2009年5月15日