ノウゼンカズラ科の落葉する藤本植物。社寺の境内でよく見掛けるキササゲと同じ仲間である。中国の中・南部原産で、わが国には薬用植物として平安時代に伝来した。因みにキササゲも原産地は中国で、こちらは奈良時代に日本に入っている。
ノウゼンカズラ(Campsis grandiflora)の漢名はひじょうに多く、凌霄、紫葳、陵苕、翟陵、金芙蓉など十指に余る。しかし今では日本、中国とも概ね凌霄で統一されている。凌霄の凌はしのぐ、霄は空や雲を意味するので、この熟語は大空をしのぐとなり、上空に蔓となってのびるノウゼンカズラの性質をよく表わしてしる。
話は少々ややこしくなるが、凌霄は本来、「りょうしょう」と読むのが正しい。ところがこの植物の生薬名が乃宇世宇(のうせう)であったことから「のうしょう」に読み替えられ、更にこれが転訛して「のうぜん」になったといわれる。かずらは蔓性を意味するので、のうしょうかずらが「のうぜんかずら」に転じたというわけである。俳句ではこれをフルネームで使うと字余りとなるため、これも凌霄(のうぜん)と読ませ、夏の季語としている。
ノウゼンカズラは茎の節から気根を出して他物に絡みつき、高くまでのびる。古くなると茎の直径は10cmぐらいになり、関西地方では30cmを越える大木もある。葉は対生して奇数羽状複葉。つまり小葉が羽軸に3~4双ついて、更に羽軸の先端にも1枚の小葉がつく。
炎暑のさなか、新しい枝の先に円錐花序を作り朝顔に似た直径6~7cmもある大型の花を次々に咲かせる。花は必ず花軸に2個対生につき、花冠は浅く5裂して濃い橙赤色でかなり派手な色をしている。中西悟堂はこの煌々たる花を「たそがれの巷の辻君」と表現した。
長い間、ノウゼンカズラの花は有毒で、鼻に当てれば脳を傷つけ、蜜が目に入れば目がつぶれるといわれてきた。このため一般の家庭には忌み嫌われ、専ら社寺の境内に植えられていた。しかしこの噂は迷信だったようで大した毒でないことがわかり、観賞目的に全国各地で栽培が広まった。仙台市内でも金網に這わせたり、また棚作りにして植えられているが、むしろ郊外の農家で垣根や居久根に絡ませているのをよく見掛ける。
サルスベリ(百日紅)とともに夏を代表する花で、江戸期以降、多くの句が作られている。
1句目のくくり猿は、5月の節句に幟(のぼり)の下につける布で作った猿のおもちゃ、2句目の端居は夏の夕方、縁先などに出てくつろいでいることをいうが、両者ともそろそろ死語になりつつある。
初句は居久根の杉にからまるノウゼンカズラの花を、また2句目は落花の掃除が大変なほどたくさんの花を咲かせる様子をうたっている。
ノウゼンカズラは日当たりの良い土地であれば簡単に育てることができる。この木を増殖するには、根元から地面を這う蔓を切り取り、これを小苗として挿し木をすれば良い。活着率はひじょうに高い。