師走の庭に咲く花は極めて少ない。鮮やかに染めた木々の葉は枯れ落ち、美しく咲いた庭草は狐色に変わり倒れている。冬木立のなか、わずかに常緑広葉樹だけが暗い緑を残している。12月は、夏至を挟み、一年のうちで最も日が短く、気温も低いので、植物にとって活動しにくい季節なのである。
ところが例外はあるもので、この厳しい条件のなか、けなげにも咲いている花がある。
俳句なのか、民間の諺なのか承知はしていないが、たしかにツワブキとヤツデはこの時期に凛然として咲き続けている。そこで今回の歳時記は、庶民的な花として親しまれるヤツデをとりあげてみた。
ヤツデ(Fatsia japonica)はウコギ科の常緑低木で庭木としても植えられるが、「宮城県植物目録2000」では、本県の南三陸海岸を自生の北限地としている。一般に沿海要素の植物といわれ、県内でも海岸に近い里山地帯の雑木林や杉林の林床に自生する。大崎八幡宮境内の杉林の林床にも、明らかに野性とみられるヤツデが、シロダモ、シラカシ、アオキなどとともにまとまった群落をつくっている。
ヤツデの樹高は、通常2~3m、茎は株立状に出て、ごつい枝をまばらに分ける。若枝は、緑色、これが2年目には灰白色に変わり、上部に半円状の葉柄の跡が目立つ。枝先に大型の掌状葉が集ってつき、四方に展開する。葉身は厚い革質で、幼時は円形、その後三つに裂け、次第に数を増して最後には7~9裂する。研究熱心な人の観察によると、8裂するものは滅多にないという。ヤツデは葉の形状によりつけられた名で、漢字では八手あるいは八手木と書く。なお、特徴的なこの葉に因んで、天狗の団扇(うちわ)、鬼の手、盗人(ぬすっと)手などの異名もある。
ヤツデの葉はサポニンという毒性の成分を含んでいる。江戸末期に貝原益軒が著した「大和本(やまとほん)草(ぞう)」という植物事典には「八手西州に多し。葉厚く、トチノキの葉に似たり。凋落せず、・・・鰹の刺身八手の葉に盛りて食すれば死すと俗に伝えり・・・」と記されている。毒は薬にもなるわけであり、漢方では葉を酒に浸して痰をとる薬に用い、民間では葉を刻んで浴湯に入れ、リュウマチの治療に用いる。
花は立冬の頃から咲きはじめる。枝の先端に大きな円錐花序を伸ばし、小枝のように分かれる花柄の先端に多数の花を散形につける。個々の花は小さく、直径5mmほどで、両性花と雄花があり、いわゆる雑居性のものである。花全体が琥珀色をしており、これが冬の日を浴びて輝いているのは風情がある。
[八手の花]は冬の季語。薄暗くて寒い庭の片隅で、ほのかな明かりをともしている花の様子を詠んだ句が多い。
花の少ない時期なので、ヤツデの花の周りを冬の蜂や虻が羽をふるわせて飛び交う姿もよく見かける。
ヤツデの花期は、師走で終わり、やがて新年を迎える。